世界で叫ばれるカーボンニュートラル(脱炭素、温室効果ガス排出の実質ゼロ)。その潮流への危機感は、成長の種に変わりつつある。
「脱炭素の動きはすごく速い。今の世界(流れ)から脱却しないと、会社が今後どうなるか分からない」
創業100年を経た2015年の年初。梶原敏樹社長(63)は次なる船出への懸念を、従業員に示した。当時、火力発電所向けの設備機器が売上高の3割ほどを占めていたが、石炭燃料などの火力発電は大量の二酸化炭素(CO2)排出が問題視され、関連産業は先細りが予想された。
どう対処するかー。活路は、もともと関わりの深い環境分野だった。
ボイラー製造などの傍ら、第二次世界大戦後に環境機器に参入。欧州の技術商社から日本での製造を担い、ボイラーなどに付着するすすを取り除く装置を手掛けた。約20年前には、製鉄所などで出る粉じんを集める機器の取り扱いを始めていた。
培ってきた技術は、難局に立ち向かう原動力となった。17年、大気汚染のもととなる揮発性有機化合物(VOC)を除去する装置の製造を新たに開始。VOCを出す塗装やフィルムなどを手がける化学メーカーとの取引を増やし、柱に育った。
さらに脱炭素に踏み出す。20年、地熱のほか、工場や船舶の余熱や蒸気を使う「バイナリー発電システム」を手がけるイタリア企業と提携した。「同じ家族経営という理由で声がかかった」と笑うが、熱交換器などの納入実績が評価され、国内販売を請け負う。産業活動で出る廃熱を利用した発電は「熱エネルギー利用の最後の未開領域」と期待を寄せる。来年の初号機納入を予定する。
国が呼びかけ、脱炭素に積極的に取り組む企業が意見交換する「グリーントランスフォーメーション(GX)リーグ」にも参画。中小製造業の参加は珍しく「今後、どのような(脱炭素への)圧力が来るか。中に入り、情報をつかみたい」と話す。
今年9月、本社を姫路市飾磨区から同市白浜町に移し、新社屋に太陽光発電を設置。30年度の自社工場のCO2排出は21年度比約87%削減を見込み、50年の実質ゼロを目指す。
「見積り書類に、CO2排出量を書く時代が来るのかな」と梶原社長。時流に乗り、脱炭素へと歩みを進めるが「ものづくりを一生懸命やる原点は変わらない。技術をつなぎ、環境との共生を図る」。次代を見据え、力を込める。
(神戸新聞 次の一手 〜 激動の中で 兵庫の企業 〜 に掲載)